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最高裁判所第一小法廷 昭和27年(オ)857号 判決 1954年1月28日

盛岡市内丸

上告人

岩手県知事 国分謙吉

右指定代理人

田沢文雄

同市東中野字柳下

盛岡市役所中野出張所内

上告人

中野地区農業委員会

右代表者会長

石川金太郎

右両名訴訟代理人弁護士

石川金次郎

伊藤俊郎

同市新庄字山王二六番地

被上告人

影山忠雄

右当事者間の行政庁の違法処分取消等請求事件について、仙台高等裁判所が昭和二七年七月一八日言渡した判決に対し、上告人等から全部破棄を求める旨の上告申立があつた。よつて当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人等の負担とする。

理由

上告理由において上告人は、自作農創設特別措置法五条五号によつて買収から除外される農地となり得るためには、(一)近く土地使用目的を変更することが相当である農地であることのみでは足りず、そのほかに(二)市町村農地委員会が都道府県農地委員会の承認を得て指定し又は都道府県農地委員会の指定した農地であることを必要とする。にかかわらず、本件においてはかかる承認又は指定のないことは原審の確定した事実であるから、これを買収から除外せずして買収処分をしたのは適法であると主張するのである。しかし、市町村農地委員会が農地につき買収計画を立てるに当り、当該農地が本件のごとく客観的に同条同号にいわゆる「近く土地使用の目的を変更することを相当とする農地」に該当する場合においては、当該農地委員会において右指定の申請、承認及び指定を行いかかる土地を買収計画から除外しなければならぬものと解するを相当とする。従つて、かかる土地について指定の申請をなさず、承認をなさず又は指定をなさざることは、違法であるが直接これらに対して独立の不服の道は許されていないから、買収計画又は買収処分に対する不服の方法としてこの違法の是正を求めることができるわけである。それ故、前記買収計画及びこれに基く買収処分は違法であり、右と同趣旨に出でた原判決は正当であるから、論旨は採ることを得ない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 真野毅 裁判官 斎藤悠輔 裁判官 岩松三郎 裁判官 入江俊郎

昭和二七年(オ)第八五七号

上告人 岩手県知事

外一名

被上告人 影山忠雄

上告代理人石川金次郎、同伊藤俊郎の上告理由

原判決は本件農地は盛岡市における都市計画区域内にあつて既に志家耕地整理組合が耕地整理を施行した地域内にあり都市計画法第十二条第一項による土地区画整理を施行すべき土地にあたること及び近く宅地として使用目的を変更さるべき土地であるからこれに対する買収計画及び買収処分は違法であるという被上告人の主張に対し、本件農地は客観的にも主観的にも近く宅地として使用目的を変更することを相当とする農地であるという事実を確定した上(本件農地は都市計画法第十二条第一項による土地区画整理を施行する土地でなく原判決もこの事実を認定していない)、自作農創設特別措置法第五条第五号による買収除外の指定のない本件農地(このことは当事者間に争がない)に対する右買収計画及び買収処分は右事実により当然に違法となるものでないという上告人の主張について「本件農地が前記のとおり、主観的にも客観的にも近く宅地として使用目的を変更することを相当とする農地であつて、買収除外の指定申請があれば、これを拒否し得ないことが明かな土地であるからこのような場合には買収除外の指定が予めなされていなくても買収をなし得ないものと解するを相当とする。」と説示している

自作農創設特別措置法第五条は政府は左の各号の一に該当する農地については第三条の規定による買収をしないと規定し同条第五号として近く土地使用目的を変更することを相当とする農地で市町村農地委員会が都道府県農地委員会の承認を得て指定し又は都道府県農地委員会の指定したものと規定している即ち右規定によつて買収から除外される農地となり得るためには(一)近く土地使用目的を変更することが相当であることのみでは足りずそのほかに(二)市町村農地委員会が都道府県農地委員会の承認を得て指定し又は都道府県農地委員会の指定した農地であることを必要とすることは法律が右の通りその要件を明確に規定している以上疑を容れる余地がないしかして本件農地について同条第五号の承認又は指定のないことは当事者間に争がないとして原判決の確定している事実であるからこれを買収から除外せずして買収計画を樹てたのは何等違法でないと云わなければならない

加之右承認又は指定はいづれも行政処分であつて裁判所はこれらの行政処分が行われた後それが違法であると認めた場合にその取消又は変更を命ずることがあるに止まつて裁判所が自ら右承認又は指定或はこれに代わる行為をすることはできない従つて裁判所が若し買収除外の申請があればこれを拒否し得ないことが明かであると認める場合換言すれば裁判所が農地委員会の右承認又は指定をしないことをもつて違法であると認めたとしてもこのことから当然に右承認又は指定をしたことにならないのは勿論右指定のない農地に対する買収計画及び買収処分をもつて直ちに違法であると判断するのは裁判所が自ら右承認又は指定をしたことと同一の結果に帰し濫りに行政の分野に立入るもので到底正当な法の解釈と云うことができない

以上の理由により原判決は破棄せらるべきものである

以上

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